「俺に近づくんじゃねぇ、怪我するぞ」
「……爆弾でも持ってんのか?」
「ある意味俺自身がな」
「はァ? 頭でも打ったのかよ」
グランサイファーの甲板の上。晴天に恵まれたその場所は日当たりも良好で、風も穏やかにそよいでいる。
最近では夜になればすっかりと冷え込み、肌を撫でる空気はひんやりと冷たくなるような日々が続いているが、日中ともなれば日差しの暖かさが空気の冷たさを和らげていた。
そんな日は洗濯物が干されていて、多くの毛布もさんさんと降り注ぐ日の光を浴び、ふっくらと暖かさを身にまとい始めるように風を含んで揺れている。その前でランドルは腕を組み仁王立ちをしていた。
手を伸ばせば届きそうで、それでもあと少し届かない程度の距離。
ランドルは自分を中心にその両手を広げた程の範囲に誰一人として立ち入らせまいと、近づけば近付いた分だけ離れていく。
「ごめんなさい、私がびっくりしてちょっと大きな声を出したばっかりに……」
ランドルの少し後ろで、青い髪をなびかせる少女ーールリアは申し訳無さそうに、自らの真っ白なワンピースの太もも辺りををぎゅっと掴みしょぼくれていた。
「まぁすげぇ音したもんな。オイラも驚いて大きな声出しちまったけどよ、ルリアにはなんにもなかったんだぜ?」
「はい。バチッてなったときはびっくりしちゃいましたけど、本当にもう全然! なんともないですから!」
「それでも痛い思いさせたことに代わりはないからな。落ち着くまで俺は何にも触れねぇ」
「ランドルさん〜本当にもう大丈夫ですから、ね? ね?」
そう言いながらルリアが手を伸ばせば、その距離だけランドルはするりと身を引いて距離を置く。追いかけっこのように続くその光景は、先程からずっと甲板の上で繰り返されている。
「話しが見えねェ。鬼ごっこの延長みたいなもんか?」
「ちっげぇよ! 遊んでんじゃねぇ!」
ビィは背中の羽を羽ばたかせ、小さな前足をぎゅっと握りしめながらぷんすこと声を荒げて言葉を続けた。
「最近夜もすっかり寒いだろ? だから寝るときに使う毛布を干すのランドルに手伝って貰ってたんだけどよ、こいつ体の中に電気を溜めやすいみたいで毛布が擦れるたびにランドルの体の中にもどんどん溜まっちまったみたいで……。今ちょっとでも触れそうになるとバチバチバチバチすげぇんだ。それでさっきルリアもランドルに毛布渡そうとしたら、すげぇ音でバチッて二人の間に電気が走ってよ……」
「静電気が走ったってことか?」
言われてみれば、確かにランドルの長い髪が風の影響とは別にふわふわと持ち上がっていることに気がついた。
前髪は四方八方にたちあがり、ポニーテールもあちこち不自然に浮いたり体に張り付いたりしている。それはまるで意思を持つかのように、奇妙な動きをしていた。
「だから何にも触れないって? さっさと放電させちまえよ」
「放電させるにも艇に支障が出るかもしれねぇだろ」
「どんだけ溜め込んだらその発想になんだよ」
じり、とラガッツォがにじり寄れば、ランドルは大きく後ろに飛びのいた。ルリアが近づいた時よりも更に大きく距離をあけ警戒している。
「お前は特に近づくな。腕壊れても知らねぇぞ」
「はァ!?」
機械仕掛けではあるが、ラガッツォの義手は電気を使って動いたり補助されているものではない。
自分自身の神経と繋がり、微弱な電流が筋肉に伝わりそれを動かすように出来ている。けれども、強い電気の衝撃が走れば、細かな回線などは焼ききれるかもしれない。
「わかったら部屋帰っとけ」
「私と握手しましょう? 放電出来ますから! バチンって、一瞬ですよ!」
ルリアは悲し気な声を出し、孤立しようとするランドルを再び追い掛け回す。
やっぱり鬼ごっこみたいなもんじゃねェかとラガッツォは思いながら、どうしたものかと頭をかいた。
「ちょっとそいつ借りてもいいか?」
「え、でも……ラガッツォさんの腕壊れちゃったら……」
「壊さねェでちゃんと放電させっから。ランドル、お前は部屋までついてこい」
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続きは2025年1月26日(日)TOKYO FES Jan.2025内 全空の覇者 30 AUTOSUFFICIENZAにて頒布予定。