――…………くるしい。
ラガッツォは衝撃を受けたように目を覚ますと、暗い室内にいた。
呼吸が乱れ酸素を求める肺に、体は必死に応えている。首筋をするりと汗が流れ落ちていくのを感じた。義手を外した短い腕で頬をさすると、そこはぬるりとした水気で滑る。寝ながら泣いていたらしい。
ヒヤリとした感覚を覚え、緩んだ思考を必死に現実まで巡らせる。
明かりの差し込む窓から見える空には、星が瞬いてた。
――またか。
それはラガッツォにとって、決して珍しいことではなかった。
はぁ、と一つわざとらしく大きな息を吐く。
自分の中に溜まった嫌悪をすべて吐き出すように。
大丈夫。
ここはグランサイファーの中。
自分一人のために与えられた部屋。
今の自分を殴る手はもうない。
大丈夫。
……大丈夫、だから。
ばくんばくんと耳まで届くように大きく胸を打ち付ける心臓の音を静めるように、現状を一つ一つ確認していた。
目を瞑ると、今まで何度も繰り返し見た夢の光景がまぶたの裏に浮かんでくる。
すべて幼い頃の自分が実際に体験したことだ。
『ごめんなさい!』
『ぶたないで!』
『つぎはもっとがんばります!』
実の親から繰り返された、痛ましい虐待の数々。出来の悪いラガッツォに対し、両親の怒りは躾という免罪符の名の下繰り返される。口で言ってもわからないから、こうするしかないのだと。
自分が出来ないから殴られる。
魔法攻撃を撃たれる。それでもわからないから、回復魔法で体を元に戻され繰り返される、躾。
泣きじゃくりながら分厚い魔導書を抱え、ボロボロになっても痛めつけられる幼い体を必死に守ろうとしていた。
ほとんど忘れかけている記憶の中で、どうしても消えていくことがないもの。
それを思い出というには想いはなく、そうあった記憶、というほうが正しいかもしれない。
その時の記憶が、ごちゃまぜになって夢に見る。それは眠るときだけに見るのではない。何かをきっかけにふと思い出し、幾度となく心を乱されている。
タイミングはわからない。それを思い起こさせるきっかけが、季節なのか時間なのか気温なのか天候なのか匂いなのか行動なのか。
どれもこれといって当てはまるものはなく、本当にふとした瞬間に蘇っては情緒がぐにゃりと歪む。
一度思い出してしまうと滾々と湧き出るように溢れ出し、肌がざわめき呼吸が乱れる。
冷静に判断する思考の邪魔をし、消し去りたくてもそう簡単にはいかない。
今では随分とコントロールできるようになり、起きているときにフラッシュバックすることはほとんどなくなったものの、眠っている間はどうすることも出来ずにいた。
なんとも言えない恐怖感。逃げ出すことの出来ない絶望感。
消えろ。
消えろ。
消えてくれ。
そう願い続けても、それは簡単には消えてはいかない。
一人でいるとき、寝るために目をつぶったとき、夢の中。ぐるぐるぐるぐると蘇る。
*
人が周りにいる環境や他人の気配がある方が幾分気が紛れることは、十三歳を超えた当たりで気が付いた。
それ以上に気が紛れることはないけれど、時間が経てばゆっくりとそれは薄くなる。
気にならなくなるその時まで、眠る事すらできはしない時間が続く。
「うわっ! 目の下のクマすご!? センパイ寝てないの!?」
ナビス時代、フィオリトに何度も指摘されていた。耳にタコが出来そうなくらいに口うるさく言わたのを覚えている。
「体調管理も出来ないとか愚かなヤツ!」
揶揄うようにいつもトリステットに言われた。自分だってそこまでいい顔色をしているわけでもないのに。
「おや、寝不足ですか? 不眠専門の名医を紹介も出来ますが……紹介料は五〇〇万ルピで結構ですよ」
心配などしてもいないくせに、監査屋の仲間ですからお安くしておきますなどとラヴィリタは白々しく言葉をつけ足しては声をかけてきた。
どれもこれもうざったいと感じながらも、それらの声が聞こえるときは思い出したくない記憶が少しばかり薄れていくのがありがたかったのは事実だ。目を瞑ると記憶が鮮明化されていくので、気を紛らわすために本を読むことが増えた。本を読んでいる間はその世界に没頭できるから、手あたり次第なんでも読んだ。いつの間にか記憶が薄れ気にならなくなっても、本を読むことが趣味となり、未だに本に触れる時間は多い。
だからうなされるように悪夢で起きた夜は、眠ることを諦めることにしている。
日が昇るまでまだ時間はありそうで、眠気がないわけではない。けれども目を瞑ることへの恐怖心が勝る。
外していた義手をつけ、ベッドサイドのランプに明かりをつける。
乱れた呼吸も大きく跳ねていた心臓も、随分と落ち着いてきた。汗が冷えて少し肌寒く感じるが、ブランケットをたくし上げてそれを誤魔化す。
ふわぁと一つあくびをして、一冊の本を手に取った。それはある騎空士の書いたノンフィクションの体験記だ。見たことのない魔物の話や、実在するまだ行ったことのない島の話は、読んでいるだけでワクワクする。
嫌なことを忘れさせてくれる世界を見せてくれるそれが、ラガッツォは好きだった。
*
いわゆるトラウマとなった幼少期の体験を、いくら環境が変わろうとも忘れることが出来ないのだと悟ったのは、騎空団の一員として迎えられる前のことだった。
腕を切り落とされ、大量出血の後に意識を失ったところを助けられ、ようやく目を覚まして若干の混乱の中で過ごした数日の間にも、悪夢を見ることは変わらなかったからだ。
なぜ自分は助けられたのか。捕虜なのかとも思って記憶喪失を装って様子を見たが、捕虜として捉えられているわけではなかった。
ただの人命救助。騎空団の団員と死闘を繰り広げたラガッツォを、一人の人間として助けてくれた。
そんなお人好しがその騎空団には何人もいて、あり得ないことに戦闘に耐えうる義手まで用意してくれていたのだ。
ナビスでのことは、別に自分がやりたかったわけではない。見る人が見れば悪事と捉えられることのほうが多かった。
それでもナビスに留まっていたのは、自分が欲しかった親からの愛情を与えてもらえたから。生かしてくれる人がいたからだった。
その人の後ろについていくことでしか生きる術を知らなかったし、役に立てるのならば自分の命すら惜しくはないと思っていた。
彼から受けた愛情はある目的のための手段の一つでしかなく、ハリボテだったと知った今でも感謝の気持ちは変わらないのに。
なんの見返りもなく自分に接してくれるこの騎空団の人々は、ずっとくすぐったかった。
そのくすぐったさがなんなのかを、まだラガッツォは理解しきれていない。
それを知るとき、もしかしたらトラウマになっている過去を乗り越えることができるのかもしれない。
けれど、それにはまだ時間が掛かりそうだった。
恩には報いる。それだけはラガッツォの中で変わらない信念。
悪いことをしたら制裁を受けなければならない。産みの親たちに教えられたことだ。
生かしてくれたあの人を止めるのは自分がやらなければと、そうすることで再び生かされた命で恩を返すことができると思っている。
だから自らの手で、赤き地平へと突き落とした。
それがラガッツォにとってのけじめだった。その後のことは終わってから考えればいい。
そこから自分のなすべきことを考えている間も、そんなラガッツォを嘲笑うように襲い来る悪夢。
なにも変わらない、変わることはない。愛されることなどないことを刻み込むように。
その度にあぁ、変わることは出来ないのかと絶望した。
何もかも終わらせたのに、自分だけはそこから逃れることが出来ない。
グランサイファーの団員にならないかと誘われてから今現在に至るまでも、それはずっと変わらずにいる。
与えられた部屋は、周りに他の団員の部屋もある中の一室。
誰かが廊下を歩けば気配を感じるし、隣の部屋の物音だって全く聞こえないわけではない。
小さな窓からは、この騎空艇が飛ぶために空を切る羽音が聞こえている。
決して静寂の中、孤独を感じるような場所ではない。気が紛れるものはいくらでもあるのに……。
頭の片隅に残る悪夢で見た映像から目を背けるように本の世界へ没頭しようとしていると、いつの間にか空は明るくなり始めていた。
*
一日二日の不眠は、誰に悟られることなく生活を送ることができる。
体が熱を持ち意識が朦朧とし始めるのは、だいたい三日目から。激しい戦闘がなければ四日目あたりから、思考と体力の低下が露骨に現れ始める。
そうなる前に少しでも睡眠時間を確保し、体が不自由なく動けるように、ある程度の体力を回復させておく。
この生活をもう何年も続けてきていたラガッツォにとって、それは当たり前のことに近かった。それがすっかり日常となっている。
仕事で年に一、二回。その日数を超えて眠ることのできない日がある。そんな日が、グランサイファーに乗ってから初めて訪れてしまった。
依頼は魔物の討伐。ただその魔物が厄介で、目撃情報や遭遇時間が全てバラバラなこと。
そして頻繁に現れるわけでもないらしい。
そのことにも近隣の街は疲弊しており、なるべく早く退治してほしいというのが依頼内容だった。
つまり見回りはほぼ二十四時間。交代制で見張ることになる。依頼の成功報酬額はそこまで高くなく、仲介のシェロカルテは派遣するのは三〜四人が適正との判断だった。
そこに向かうことになったのが、フェザー・ランドル・フィオリト・ラガッツォの四人。
作戦としては、四時間ごとに一人ずつ休憩にはいる。休憩時間は仮眠を取るなどして体を休めること。魔物に遭遇し次第可能な限り全員での討伐を予定。
健康な十代であれば、多分その日程でもあまり問題はないのだろう。
討伐対象に出会えるまで、どれくらいかかるのかはわからない。今回はとりあえず二週間が区切りとされていたため、最長で二週間の滞在となる。
ただ常習的に寝不足なラガッツォにとって、限界を超えるのは明白だった。休憩の四時間で二時間でも眠れればいいが、睡眠に落ちる可能性は低い。
*
案の定代わる代わる休憩を取りながら依頼をこなすだけのことではあるのに、落ち着かず眠ることが出来ずにいたラガッツォは、遭遇した魔物との戦闘中に体が思うように動かず、バランスを崩し攻撃を食らってしまった。
それは一瞬の隙での出来事。
「ラガッツォ!」
そう叫んだのは誰だったか。
「うっ、ぐ……」
そこまで深い負傷ではないものの、熱を持ち疲労で気だるくなった体には、その一撃でも十分なほどのダメージを与えた。
――くそ、いてェな……
裂かれた脇腹は、服が破け、数センチ程度肉をも切り裂かれている。傷が脈打ち血が溢れ、そこから体力が更に溢れ出しているのかと思うほど、急に体は言うことをきかなくなった。
膝を付き片腕を地面につけた体を、それ以上崩れないようにするのがやっとだ。
その前にフェザーとランドルが立ちはだかり、フィオリトが前線で大きな魔物と戦っている。
「大丈夫か! ラガッツォ!」
「わり……」
「いいから体勢立て直せ! 無理なら下がってろ!」
ラガッツォはクソ、と自分にだけ聞こえる声で呟くと、ぐっと腕に力を入れる。
けれどそれも大した意味もなく、結局立ち上がることすらできない。
今の自分は足手まといでしかない。
ならばせめて仲間の邪魔にならないところへ引くべきだ。わかってはいるのに、痛みが加わった体は鉛を抱えたように重く、動くことが出来ずにいた。
「フェザー!」
「あぁ!」
前線からフィオリトが叫ぶと、フェザーはそんなラガッツォを気にする様子もなく魔物へ向かって飛び出していく。
それを見てランドルはチッと舌打ちをして、地面に膝をついたままのラガッツォの腕をぐいと引き上げた。
肩を貸し、ラガッツォを半ば担ぐようにすると、その体はひどく熱い。よく見れば額に汗が滲んでいる。
ハッハッと短く繰り返される呼吸は、肺にまできちんと酸素を送れていそうにはない。
「お前……毒……?」
「ちっげェ……気にすんな、俺のミスだ……」
やっとの思いで立ち上がると、邪魔にならない場所までランドルに引きづられるようにして歩く。
その間もラガッツォの額には汗がにじみ、呼吸が浅く繰り返されていた。
離れた岩場に一旦身を寄せ、傷の状態を把握するためにランドルはラガッツォのシャツをまくしあげる。
致命傷というには程遠いが、数センチほどの裂傷からはとくとくと血が溢れ出していた。
「とりあえずこれで我慢しろよ」
そういってランドルは自らの腰紐の一部をしゅるりと解き、ラガッツォの傷口と心臓の間でぎゅっと力強く結ぶ。
いくらか血の流れが鈍くなったところで、外した腰布を傷口に宛てがい力強く抑え込んだ。
「応急処置しか出来ねぇけどないよりましだろ」
「あぁ……わりィな……」
「殊勝な態度じゃねぇか」
「う、るせェ……」
「それだけ憎まれ口叩けんなら、ちょっとここで大人しく待ってろ」
ポンとラガッツォの肩を叩きランドルは立ち上がると、すぐさま魔物と戦う二人の元へ駆け出した。
虚ろな目でそれを見送ると、傷口を抑える手に力がこもる。
血が抜けていく感覚は睡魔に襲われる感覚と似ている気がして、ハッハッと短く呼吸を繰り返しながら目を瞑った。
――いってェ……。
睡魔と疲労感と痛みとが混ざり、落ちていきそうな意識がギリギリのところで保たれている。
止血はされているが、すぐに血は止まるものでもない。
いつの間にか傷を抑えるために握っていたランドルの腰布は、じっとりと血を吸い込みラガッツォの義手を伝い流れ落ちていく。
まだ乾いている場所を探し傷口にグッとあてがうと、激痛が走り思わず顔を歪めた。
ずくんずくんと脈打つように痛み、出血は少なくなってきていても痛みは全く引いていかない。
気を抜くとフッと意識が遠のきそうになる。ラガッツォは落ちないように必死に意識を保っていた。
*
いくらかの時間が経過すると、遠くからラガッツォを呼ぶ声がした気がした。
瞑っていた目を開け、声のする方に視線を向ければ、姿はきちんと確認しにくいものの、徐々にフェザーの声が大きくなっていく。
木や岩などの間から動くひとがたを見て取れた頃には、しっかりとフェザーの声が耳に届いていた。
「ラガッツォ!!! 無事か!!!」
ラガッツォの姿を見つけると三人は駆け寄り、ラガッツォのすぐそばにしゃがみ込む。
「なんともねェよ。ちっとミスっただけだ」
「すごい血じゃないか! 歩けるか? 背負ったほうが良ければ俺の背中に乗れ!」
フェザーの肩を借り立ち上がると、足が覚束なかったもののなんとか踏ん張ることができた。
一人で歩くのはきつそうで、大人しく半分担がれるように肩を借りながら、そのまま近くの街へと足を向ける。
「それより熱はどうした? 傷を負って上がってるんじゃないか?」
「熱?」
フィオリトはすかさずランドルのその言葉に反応をし、顔をそちらに向ける。
魔物に会う前まで、体調が悪そうには見えなかったと記憶している。けれども、フィオリトはそれを聞いて少し引っかかっていた。
「さっきここまで運ぶときに担いだら、体温が高くて汗も結構滲んでてな。あの魔物に毒性でもあったのかと思ったけど、そうじゃねぇって」
だから一旦安全を確保して戻ったんだけどよ、とランドルは続ける。
それを聞いてフィオリトはラガッツォの方へ向き直ると口を開く。
「もしかして、またちゃんと寝れてないの?」
「また?」
ラガッツォは答えずにいたが、それが答えだと受け取ったのかフィオリトは大きなため息をつく。
「昔からそうなんよ。寝るのが下手っていうか……今までにも寝不足っていうか、不眠? で倒れたこともあるし。寝れずにいると疲労感からか体に熱が籠るみたいなんよ。最近は落ち着いたと思ってたんだけど……」
「仮眠を取ってなかったってことか?」
「交代のときは今起きたって言ってたのにか?」
「フェザーはラガッツォが寝ている姿は見た?」
「いや……」
フィオリトからランドル、ランドルからラガッツォが入れ替わり休憩に入り、そこからフェザーへと変わり再びフィオリトへ。
このローテーションで回していたので、ラガッツォが寝ている姿を見る可能性があるのはフェザーだけだった。
休憩ごとに仮眠を取っているわけではなかったが、数時間の猶予があるなら少しでも体を休めるために仮眠を取る場合が多い。
なので必然的に交代する際は、相手を起こす形になることが多かった。
けれどもフェザーは一度もラガッツォを起こすことをしていない。先に起きていたからだ。
正確には眠ってなどいなかった。
目を瞑り体を横にしてはいたものの、フェザーの足音が近づくと体を起こし身なりを整え始めていた。
先程まで眠っていたが足音で目が覚めたといえば、フェザーは何も疑うことはしていなかった。
「不眠って、全く寝れないのか?」
ナビスのときに見た状態を、フィオリトはこれ以上話すかどうか迷って口籠る。
倒れて意識をなくしたようにこんこんと眠り続けているラガッツォの姿は、穏やかなばかりではなかったからだ。
ときにうなされ冷や汗をかき、またあるときは涙を流していることもあれば、何かに耐えるように体を丸め縮こまり歯を食いしばっていることもあった。
けれども成長するにつれてそんな姿を見る頻度も減り、眠れるようになったのだろうと思っていたのに。
「……隠してたの?」
「別に……隠してたわけじゃねェ……うまく、付き合ってきただけだ…」
「隠してんじゃん!」
「おい、フィオリト! あんまラガッツォに喋らすな」
ランドルが制止すると、フィオリトはぐっと言葉を飲み込んだ。
「……そうだよね、ごめん。あとにする。先に街まで行ってお医者さんに伝えてくるね」
やっと近くの街が見えて来たところで、フィオリトはそう言うと駆け出して行った。
ラガッツォと唯一長年の付き合いがあるのがフィオリトだ。ナビスで出会い成長し、共に仕事もこなしてきた。
だからこそ今現在、誰よりも互いのことを理解したくなくても出来てしまうのだろう。
「あんまりフィオリトに心配かけんなよ」
「知るか」
「また憎まれ口か」
「お、医者はあそこみたいだ。あと少しだぞ」
フェザーのその声にふっと顔を上げると、街の入り口からそれなりに入った場所からフィオリトのような人影が、こちらに大きく手を振っているのが見える。
「あぁ」
「気ぃしっかり持てよ、ラガッツォ!」
「……うるせェ、聞こえてんだよ」
気づくと横に並んでいたランドルは駆け出しており、すぐに担架が運ばれてきた。
フィオリトが抱えて走ってきていたのだ。
視界がぼやける。もうすぐきちんと止血され、処置がなされる。そう思った瞬間、ぐらりと脳が揺れる感覚。
ラガッツォの意識は、睡魔なのか痛みからなのかわからないところでずっと揺れていて、余計なことを口走らないようにすることだけに意識を集中させていた。
「ほら、ここ乗れ」
広げられた担架にゆっくりと横たわると、ふっと体の力が抜けていくのを感じた。
――やばい。落ちる……。
一瞬の気の緩みで、ラガッツォの意識は途絶えた。
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